長引く痛みがある、痛む所を治療をしても収まらない、あちこち痛む・・・
そんな慢性痛の治療について、明治国際医療大学の伊藤和憲先生の講座を受講しました。
現代医学的アプローチでの研究に基づいた講義と実技指導をいただき、学び多い講座でした。
慢性痛のある方が、鍼治療を受けてみようと思って下さるとうれしいので、以下学んだ内容を記します。
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医学的には4週間以上続く痛みを慢性痛とし、急性痛と区別していますが
慢性痛の大きな特徴の一つは、脊髄や脳のレベルに問題が起きて痛みを感じていることです。
痛みのある場所や、怪我をして最初に傷めた場所を治療しても収まらない理由はそこにあります。
脊髄は背骨の中を通る神経の束で、背骨の両側からたくさん枝分かれした神経が体の隅々に広がっています。
痛みだけでなく温度や振動などあらゆる刺激が神経を経由して脳に伝わりますが、その間にいくつか中継点があります。
慢性痛になると脊髄近くの中継点に物質的な変化が起き、ごくわずかな刺激にも過敏に反応し、痛みを感じるようになります。
また脳は、痛みを感じるとその痛みを抑える指令を出す働きがあります。
通常は痛みを感じるとセロトニン等の脳内物質によって指令が伝わり鎮痛が起きるのですが、
慢性痛になると必要な物質が減って指令が伝わらず鎮痛が起こりにくくなります。
慢性痛がある方で、よく眠れない、食欲がない、気候の変化で痛みが増す、あちこち痛みがある
など様々な不調の訴えがあるのも、脊髄・脳レベルの変化に起因すると考えられます。
なので、慢性痛の治療は何よりもまず一刻も早く痛みを抑え、症状の広がりをストップすることであり、
その際には鎮痛薬の処方と同様、脳、脊髄、筋肉等、どのレベルを中心に痛みが起きているか推測し、そのレベルに働きかける必要があります。
手足や頭皮、耳など、脳や脊髄に働きかける「ツボ」がたくさんありますが、
慢性痛の治療では手足のツボに微弱な鍼通電を行うと脊髄レベルに、頭皮や耳への刺鍼で脳レベルに働きかけることが確認されています。
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今回の学びを通して、慢性痛の方にはこれまで以上に鍼を受けていただきたいと思いました。
なお伊藤先生は、治療の上で必要かつ重要なこととして、養生、心理学、社会環境についても、時間をかけてお話されました。
慢性痛のときのお気持ちや養生について、まだまだ私には学びが必要と感じましたが
まずはお話を伺って、おひとりずつ違う日常の中で無理なく実行できることを見つけられればと思います。
※ 日本の全成人の22.5%が慢性の痛みをもち、その80%が整形外科を受診したが治療に対する満足度は高くなかったとの調査結果があります。
(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1408102249 より)
※ 近年、慢性疼痛への鍼灸治療の有用性、非ステロイド性抗炎症薬や抗不安薬、アセトアミノフェンと同等の「推奨度2(弱):施行することを弱く推奨する(提案する)」となりました。
(慢性疼痛診療ガイドライン, 厚労省行政推進調査事業費補助金「慢性疼痛診療システムの均てん化と痛みセンター診療データベースの活用による医療向上を目指す研究」研究班 監修, P142, 2021.6)